空が紫色をしている。
時々ストロボを焚いたような光が ぴかり ぴかりと走りぬけた。 音はまだ聞こえない。 静かな空と海に閃光だけがスピードを持っていた。 私は1件のバーに入った。 とても静かで、がらんとしたバーだった。 そこでビールを飲みながら、死というものについて考えていた。 この島に入ってからそれは、なんだかいつも私のとなりにたゆたっているようだった。 そしてそれは、私の中のひとつの信念 ー私は若く健康でいつまでも生きられるというー をゆらがせうすめていくような感覚だった。 漁師と思われるおじいさんが入ってきて、私のとなりにすわった。 ウィスキーを一杯注文し、どこから来たのかと聞く。 私が答えると、ふーんと特に興味もなさそうにあいづちをうち、自分はスペインから来たと言った。 「今日は海が荒れるから、仕事は休みだ。 嵐が来るよ。」 そう言って、私にもウィスキーをたのんでくれた。 それから、おじいさんはとつとつと語りだした。 まるで、ひとりごとのように。 私など存在しないかのように、ただとつとつと。 「7年前までおれはいつも親父と一緒に漁にでていた。 親父はおれの師匠でもあったし、仲間でもあった。 でも、7年前のこんな嵐の日 大波にさらわれて、親父は一瞬で目の前から消えた。 大嵐だったんだ。 どうすることもできなかったさ。飛び込んで助けるなんてできると思うか? 動くこともできないくらい、荒れていたんだ。 おれはしばらく、何が起きたのかわからなかった。 考えてみてくれ、今までずっと一緒に暮らしてきた人間が一瞬で消えるということがどういうことなのか・・・。 いくら考えてもわからなかったよ。 親父はいったいどこに行ったのか。 わかったことはただ一つ 人生っていうのはそういうもんだってことだ。 おれがいくら頭使って考えて、わからないと泣いてわめいたって関係ない。 ただ、人生ってのはそういうもんだったんだ。」 外ではあいかわらず稲妻が光っていた。 いつもそこにあるのに、忘れたようなふりをしている存在を照らすように。 少しだまってお酒を飲んでから、 おじいさんはまた言った。 「死は、突然だろうが少しずつだろうが圧倒的な力でやってくる。 それもおれたちが考えているよりも、ずっと早く。 ずっと、ずっと早く。 おれはそれがわかったんだよ。 だからって何ができる? 何もできやしないよ。 ただ毎日を生きるだけだ。ある日やってくるまではね。」 私はウィスキーを飲み干して、席を立った。 「おじいさん、私はそれでも嵐の日に海に出ていくよ。 今、すごく聴きたい音楽があるんだ。」 そう言って、私はヘッドフォンを耳につけた。 それは、この稲妻が光り始めたときから頭の中でなっていた音楽だった。 今日の音楽 マーキュリーレヴは雷とよく合うと思いませんか。。
by galwaygirl
| 2010-10-04 19:45
| 妄想旅日記
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